眠る魂

――大きな庭の片隅、十四郎は1人庭木の枝に座り空を見上げていた。為五郎は上を見上げ、その小さな後ろ姿に声を掛けた。
「…シ、トシ。どうした。ぼうっとして。」
「あ、ごめんなさい。何か用?兄さん。」
「うん、これから隣村に用事があって行くんだが、お前も来るか?」
そう問えば十四郎の顔がパッと輝いた。
「うんっ行く!」
答えながら急いで庭木から降りてくる十四郎に為五郎は思わず頬が緩んだ。
「はっはっは、そうかそうか。じゃあ行こうか、トシ。」
そう言って為五郎が大きな手を差し出せば十四郎はその小さな手で力いっぱい握りしめた。2人とも笑顔で手を繋ぎ隣村へと歩いて行った―――




―――
「ぐあああああ!!」
「兄さんっ!」
突然押し入ってきた暴漢達に恐怖し、十四郎は咄嗟に動くことができなかった。振りかざされた鋭い刃、ぎゅっと目を瞑り体を強張らせると強い力に引かれ後ろに倒れた。
そして上がる、聞き慣れた声の断末魔。
十四郎ははっとして顔を上げると信じたくない光景が広がっていた。滴る血が地面に広がっていく。両手で目を覆い、痛みに震え、呻き声を上げる為五郎の姿。ぷつんと、十四郎の中で何かが切れる音がした―――







―――十四郎は無我夢中で走っていた。息を切らし、長い髪を振り乱して。
「はぁっ、はぁ!」
長時間走り続けた身体は全身の筋肉が悲鳴を上げていた。
ドサッ
足が縺れ勢いよく転んだ。
「うぐっ……はぁっはっ」
ガクガクと震える膝を叱咤して立ち上がると汚れを払うことなくまた走り出した。
長らく疎遠だった土方家に勢いよく上がり込むと兄弟達の非難の視線には目もくれず奥の襖を開けた。
「………」
静かに足を踏み入れる。
目の前には、棺桶に収められ花に囲まれ穏やかに眠る為五郎がいた。
ドッ
十四郎は全身から力が抜け、膝を付き、呆然とそれを眺めた―――










「…シ、トシ!」
「!」
「ははは、珍しいなお前がこんなところで居眠りなんて」
「あ……近藤、さん?」
辺りを見渡すと、そこは屯所の縁側だった。日が沈みすっかり暗くなっていた。
「ん?どうした、顔色悪いぞ?」
「あ、いや…なんでもねぇ」
そう言ってなんとか笑顔を繕えばそうかと返された。
「あんたこそ、どうしたんだ、なんか用か?」
「あぁそうそう。久しぶりにお前と酒でも飲みに行こうと思ってな。明日非番だろ?ちょっとくらい付き合えよ」
「…そうだな。久しぶりに飲むか」そういえば明日は兄貴の命日だっけ、と思い出す。
「だからこんな夢見たのか」
ぼそりと呟いたが近藤には聞こえなかったようだ。
「よし!そうと決ればさっそく行くぞ!トシ!」
「…っ」
一瞬、先程夢で見た為五郎と近藤が重なった。自分を引っ張ってくれる大きくて温かい存在。ふいに涙が込み上げてきて、慌てて顔を隠す。
「ん?どうしたトシ」
「な、なんでもねぇ」
「そうか。お前その格好じゃあ寒いだろ。羽音くらい着てけよ」
「おう、先行って門で待っててくれ。」
「ああ。早くしろよーお店混んじゃうから」
「わかってるって」


今日は奮発するかと言って近藤はいつもより高めの店を選んだ。客も多くなく、席がそれぞれ区切られているので店の中は静かだった。他愛無い会話をしながら酒を進める。ほんのりと気持ち良く酒が回ってきたところで近藤がおもむろに切り出した。
「明日、為五郎さんによろしくな。」
「え…」
「行くんだろ?」
「ぁ、ああ。覚えてたのか。」
そう言えば明日の非番も近藤に言われてとったものだった。仕事に忙しくすっかり忘れていて、自分も思い出したのはついさっきだというのに。近藤の気遣いをありがたく思う。きっとこの酒に誘ったのもそうなのだろう。心が暖まり再び涙腺が弛むのを隠すように目を瞑る。
「ありがとうよ」
近藤が笑むのが気配で伝わってくる。そのあとはまた二人静かに飲んだ。
こんなにも穏やかな気持ちで明日を迎えることができるのは近藤のおかげだと、心の底から感謝した。





END


子土&ポニ方+為五郎からの近藤+土方でした。
うちの近藤さんと土方の中にあるのは恋愛感情ではないですね。家族だったり親友だったり深くて強い絆が二人の間にはあります。
為五郎さんの口調がよくわからない。土方が為五郎さんのことをなんて読んでたのかも気になるな。
最後まで読んで頂きありがとうございました。



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