はじめの一歩

ぼろぼろに廃れた一軒家。雑草が生えた小さな庭に面した縁側に1人の少年が暇を持て余したかのように、足をぶらつかせながら座っていた。少年−土方十四郎は、これといってすることもなくただ空を見上げている。一面に広がる澄み渡った青空。時折聞こえてくる林の鳥のさえずり。誰もいない閑散とした家。
ただただ、1人であるということを強く実感させられた。

3日前に母親が死んだ。人付き合いをしてこなかった母親には親戚もおらず、葬式も村の者達数人でのひっそりとしたものだった。
父親の顔は、知らない。遊び人だった父親は自分が生まれるとぱったりと母の前から姿を消したという。それからというもの、父を愛していた母は父のいない寂しさを埋めるように仕事に没頭した。そう、母が愛していたのは父であって自分ではない。元々望んで生んだわけではなかったので、愛情を注ぐこともなく、それどころか、自分を生んだことによって父がこの家に来なくなったのだから憎んですらいた。
母はいつも朝早くに出かけ、夜遅くに帰ってくるから家ではいつも1人だった。帰ってきたかと思えば、飯を食べることなく倒れるように眠ってしまうから会話らしい会話もなかった。そして、そんな生活を数年続けていると、元からそんなに体が強くなかった母は過剰な労働についに体が悲鳴をあげ、ぽっくりと死んでしまった。
そんなんだから、母が死んでしまったとき、涙も流れなかった。悲しみはあまりなく、ただ孤独感だけが強く押し寄せた。これで、自分は本当に1人きりなのだと。1人になると色々と嫌なことも考えてしまう。ただの1度も愛されず、必要とされたことのない自分は一体なんのために生まれてきたのかと。そんなことを考えていると、重く押し潰されそうな気分になるから1人は嫌いだった。自分には、どこにも居場所がなかった。母が死んで身寄りのなくなった自分を、村の大人達は誰も引き取らなかった。妾の子の自分は、大人達にとって面倒事なのだ。母の残してくれたお金は僅かしかない。あれ程働いていたにもかかわらず、たいした賃金を払ってもらえていなかったらしい。
10才ににも満たない子どもがこれからどうやって1人で生きていくのか、先のことを考えると自然と顔は下がり、いつの間にかうつむいてしまっていた。
ふと、足音がしたと思ったら大きな影ができた。ここにくるのは村の者しかいない。そう思って、一体自分になんの用だと小さな顔を上げると、そこには見たことのない人が立っていた。
「十四郎君だね?私は土方為五朗というものだ。」
そう言ってニコニコと笑う顔に驚いた。こんな顔、今まで誰にも向けられたことがないのだ。土方とは、確か父親の姓だったはずだ。「おれに、なにかようですか」
警戒半分、緊張半分で尋ねるとやはりニコニコと笑って目線を合わせるように腰を落とした彼が言う。
「今日からお前は私の家族だ。うちに来なさい。」
その言葉に目を丸くした。ぽんぽんと小さな頭に手をのせる男を不思議そうにみつめる。今までこんなにも優しげな瞳を寄せられたことも、壊れ物でも扱うかのように触れられたこともないのだ。
「かぞく…?」
「そう、家族。」
そう言って彼は小さな体の両脇に手を差し込み軽々と土方を持ち上げると、縁側から地面の上へと下ろした。
「さぁ、行こうか。」
目の前に差し出される大きな手。土方は困惑していた。いきなり表れ、家族だなんだとわけのわからないことをいい、自分をどこかへ連れて行こうとする男に。言いたいことは山ほどある。しかし、初めて寄越された優しい瞳に、今はそんなことどうでもいい気がして。悲しくもないのに鼻の奥がつんとなって、目の前の大きな手を小さな手で必死に掴んだ。それに、男が満足そうに微笑む。不安がないわけではないが、初めて誰かと繋いだ手はとても温かくて、心が満たされていくのを感じていた。
今度こそ、愛されることを願って、小さな一歩を踏み出した。



END




為五朗さんの口調がよくわからない。この話ではお母さんを酷い人にしてしまって申し訳ないと思っている。本当はお母さんからも愛されて育ってたらいいよね。そうして大好きなお母さんを亡くして塞ぎ込んでいた土方の心を為五郎さんが癒してあげて少しずつ為五郎さんに心を開いていくといいよ。この兄弟大好きだ。

最後まで読んで下さってありがとうございました。

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