手に入れたもの

ガララ
病院のベッドの上で上体をお越し窓の外に見える夕日を見つめているとおもむろにドアが開いた。
「ようトシ、見舞いに来たぞ!」
そう言って元気よく近藤が入ってくる。その後ろにひっそりと山崎が続く。近藤はベッドの横にある椅子に腰掛け、隣に山崎が立った。
「土方さん、ちゃんと横になってなきゃだめじゃないですか。命に別状はないとはいえかなり重症なんですから」
開口一番に上体をお越していたことを咎める山崎に、お前は俺の母ちゃんかと突っ込みたくなる。
「いちいちうるせえ。こんなもんかすり傷だ」
「がっはっはっは!トシらしいなぁ」
こんなときでも弱みを見せようとしない土方に近藤が豪快に笑う。
「もう、人の話聞かないんだから」ぶつぶつと文句を言いつつベッドサイドへ移動し、花瓶の花を新しく持ってきたものと入れ替える。
「そんなことより近藤さん。あんたまでわざわざ来ることなかったんだぜ?昨日の今日でまだ色々と忙しいだろう」
一昨日の夜から昨日の早朝にかけて続いた見廻り組とチェケラッ党との騒動の後、限界まで酷使した体がついに耐えきれず意識を失ってしまった土方にはその後のことは詳しくはわからないが、事後処理やら何やらやることはたくさんありそうだ。そんなときにただでさえ副長の自分がいないというのに、局長までこんな自分なんかのために抜けてしまってはたいへんだろうと思う。
「なに、心配するな。俺も迷ったんだ。少しでも早くお前の無事な顔が見たかったんだがこんなときに局長の俺が抜けるわけにはいかんと。だがな、あいつらときたらなんて言ったと思う?早く副長の下へ行ってあげてくださいだとよ。みんなして迫ってくるもんだから俺の方が面食らっちまった。まったく頼りになる奴らだよ。」
そう言ってこちらに笑顔を向ける近藤を、話を聞いているうちにだんだんうつむいてしまった土方はみることができなかった。真顔で恥ずかしいことを言う近藤や、隊士達の気遣いが嬉しくて。うっかり涙がこぼれそうになるもんだから、年だな、なんて関係のないことを思って誤魔化してみたり。こんなにも近藤達は自分を思ってくれている。居場所がある幸せを強く噛みしめた。しかし、今回はそんな彼らに自分のせいで迷惑をかけてしまった。自分が佐々木とやりあったことで、見廻り組との溝を決定的なものにしてしまった。「…すまねぇ近藤さん。仕事に穴あけるばかりじゃなく、今後見廻り組にも目ぇつけられるかもしれねえ。俺の勝手で真選組にも迷惑かけちまった。」
沈痛な面持ちで謝罪する土方に、近藤は優しげな眼を向ける。
「何言ってんだトシ。お前が謝ることじゃねえだろ。今回のことは仕方なかった。ああでもしなきゃ鉄は救えなかったんだ。お前がやらなきゃ俺がやってたさ。それに、仕事の方は何も心配いらん。いつもお前には無理をさせちまってるからな。ま、仕事を増やしてる俺が言えた義理じゃぁないが。この機会にたっぷり休め。」
そう言いながら土方を寝かしつけるように布団の上からぽんぽんと優しく叩いてくる近藤に何も言えなくなる。
「局長、そろそろ時間です。」
黙って2人の話を静かに聞いていた山崎が時計を見てそう告げる。「 おお、そうだな。これ以上は体にさわるな。」
近藤が少々名残惜しげに椅子から立ち上がる。
「副長、くれぐれも安静に。間違っても煙草なんか吸っちゃだめですからね。」
「……」
「トシ、俺達ゃ帰るがしっかり体を休めろよ。お前が帰ってくるのをみんな待ってるんだからよ。」そう言ってニカっと笑う。土方は口元まで布団を引き上げごろりと近藤達に背を向けた。
「…ありがとうよ」
小さな声でぼそりと礼を言う土方に近藤と山崎は顔を見合せくすりと笑う。
「じゃあなトシ。また来るよ」
最後にぽんと頭に手を置き2人は病室から出て行った。
1人病室に残された土方は、胸にあついものが込み上げてくるのを感じていた。早くこの怪我を治し、あいつらの下へ行きたいと強く願うのだった。
窓から差し込む夕日に照らされた土方の顔は穏やかで、笑って見えた。




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